＜習近平の野望＞

習近平・中国国家主席は「中華民族の偉大なる復興」というシンプルながらも、パワフルなビジョンを明確に表明している。それは過去の中華帝国の栄光に訴えかける愛国主義的なスローガンであり、国内的な政治的連帯と外国での影響力を強化しようとする現指導層の理念を映し出している。最高指導者のポストを得てわずか２年で、習近平は改革主義の指導者としてイメージを確立し、国内だけでなく外国との政治・経済関係を改革するためのアジェンダを設定している。

一方で習近平のビジョンは彼の危機感も映し出している。経済的な成功にもかかわらず、中国が政治的に漂流しているタイミングで彼は国家主席に就任した。政治腐敗問題とイデオロギーの形骸化に苦しむ中国共産党は大衆の信任を失い、社会騒乱も深刻化している。依然として見事な成長軌道にあるものの、中国経済は柔軟性を失い、先行き不透明感が高まっている。グローバルな経済大国としての地位を確立しながらも、その実力に見合うような影響力を行使できていない。リビアとシリアの混乱への対応を怠り、隣接するパートナーであるミャンマーと北朝鮮が政治的変化に翻弄されるのを傍観している。この事態を前に、専門家の多くは、中国は包括的な外交戦略を持っていないのではないかと考えるようになった。

こうした停滞を前に習近平は、彼のため、共産党のため、そして中国のために権力の強化を模索するようになった。共産党の伝統的な集団指導体制を拒絶し、厳格な中央集権型政治システムにおけるより大きな権限を持つ指導者として自らを位置づけた。習近平が提案した経済改革は市場の役割を強化するだろうが、それでも、政府が経済への大きな権限を維持していくことに変わりはない。

対外的には、貿易と投資を拡大し、新たな国際機関を立ち上げ、軍の強化を試みることで、中国の地位を向上させようとしている。だが、彼のビジョンには恐れが影を落としている。それは、西洋の政治と経済思想に門戸を開き続ければ、中国国家のパワーが損なわれていくという恐れに他ならない。

うまく成功すれば、習近平の改革によって政治腐敗はなくなり、政治的凝集力が強化され、世界的な影響力を持つ経済的にパワフルな一党支配国家、つまり、シンガポールが巨大化したような国家が誕生する。

しかし、改革が彼の望むような変化をもたらすという保証はない。彼の政策はすでに国内の不満を増大させ、国際的な批判と反動を呼び込んでいる。反体制派を抑えようと、彼は弾圧策をとっている。こうして、改革を通じてそのポテンシャルを引き出そうとした才能ある人々がすでに彼に背を向けている。暫定的な経済改革で持続的な成長を維持できるかどうかさえ疑問視されている。「勝者がすべてをとる」という彼の政治スタイルが、グローバルな指導者になる道を閉ざそうとしている。

アメリカそして世界は、習近平の改革の結果が出るまで様子見を決め込むわけにはいかないだろう。ワシントンは習近平の構想の一部については国際協調の機会として利用する一方で、その他については、それが実現し、基盤を作り出す前に阻止すべき厄介なトレンドとして認識し、それに対処していく必要がある。